JFEスチール(株)は、独自のCVD(化学蒸着)技術により連続シリコナイズ加工を行う高速モーター用シリコン傾斜鋼板「JNRF™」を開発しました。高周波鉄損の低減と磁束密度の向上により、モータの高トルク化と省エネ効率の大幅な向上に貢献します。
モーターや変圧器などの電気機器の鉄芯材として広く使用されている電磁鋼板※4は、電気機器の性能を左右する重要な材料です。近年、電気機器の小型化に伴う駆動周波数※5の高周波化に伴い、高周波駆動用途に使用される電磁鋼板の鉄損低減が求められています。シリコンは鋼の電気抵抗を増加させるため、シリコンの量を増やすと高周波領域での鉄損を減らすのに役立ちます。JFEスチールは、CVD連続シリコライジング技術を独自に開発し、高シリコン(6.5%)鋼板「JNEXコア」と表層にシリコン濃度を高めたシリコン傾斜鋼板「JNHFコア®®」を生産し、より高品質な製品の開発を可能にします(図1(1))。
高速モータ用途では、高周波駆動による鉄損の低減や、高トルク化のための磁束密度の向上が求められています。そこでJFEスチールは、電磁鋼板製品のラインアップを拡充する計画を打ち出しました。そこで、シリコナイズ量と拡散条件を最適化することでシリコン濃度分布を制御し(図2)、結晶方位を制御する(図3)ことが解決策となりました。
その成果が実を結んだのが、高速モーター用シリコン傾斜鋼板「JNRF™」です。JNRF™は、従来の無方向性電磁鋼板(3%珪素鋼板)と同等の磁束密度(トルク)を維持しながら、モータ効率を大幅に向上させ、省エネに貢献します(図1(2))。
※鉄の磁化のしやすさは結晶方位に依存します。シート表面と平行に配向を制御することで、磁化しやすい(磁束密度の高い)材料を作製できます。
JFEスチールは、今後も電磁鋼板製品の用途拡大に取り組み、電気自動車用駆動用モーター、家電用モーター、ドローン用モーターなど、モーターの小型化・高速化に貢献し、サステナブル化が進む社会における電気機器の高効率化・小型化ニーズに応えていきます。
化学気相成長(CVD)プロセス技術は、鋼中のシリコン濃度を上昇させます。CVDは、鋼帯焼鈍ラインで行われ、鋼帯を炉内に連続的に通過させながら、炉内で鋼帯と四塩化ケイ素(SiCl4)ガスを反応させます。
鉄損とは、鉄心が交流によって励起されるときに失われるエネルギー(主に熱)を指します。鉄心が高周波で励起されたときに発生するエネルギー損失を高周波鉄損と呼びます。高速モータは、高周波鉄損が低減されるほど効率が良くなります。
磁束密度は、物質の磁化のしやすさを示すもので、密度が高くなるほど電磁強度が高くなります。モーターでは、磁束密度の高い材料でより大きなトルク(出力)を達成できます。
電磁鋼板(または「珪素鋼板」)は、鉄に珪素を添加したものである。モーターや変圧器などの機器の鉄芯材として広く使用されている薄板に、まず絶縁被覆を施します。
電気機器では、駆動周波数は電流、電圧などの毎秒の振動数です。通常、モータは高速回転で駆動すると駆動周波数が高くなります。
JNEXコア、JNHFコア、JNRFコア®®®はJFEスチール株式会社の登録商標です。